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「あの……もしかして、相手は敗走してませんか?」
まだ敬語が抜けないオレに、茶髪の男は眉を顰めた。
考えるように顎に手をはわせ、右頬の傷を指の腹でさする。それからこちらを見つめ、もう一度敵の様子を確認した。
隣で同じように敗走する敵を視認したオレは「やっぱり退却してます」と呟く。
「……お前が指揮官ならどうする?」
「敵側なら退却、その間は最前線の数人が犠牲になって持ち堪えるでしょうね。追撃側なら深追いはせず、こちらのケガ人を回収します」
まるでテストみたいだ。
擽ったい気分で答える表情が綻ぶ。
うっすら笑みらしきものを浮かべている自覚はあるが、場に相応しくないと思わなかった。
小銃を手の中でくるくる回して答えるオレの頭に、ぽんと男の手が乗せられる。
「よし、こっちも撤退する」
インカムに似たイヤフォンマイクにそう告げる男の指示が伝わったのか、急激に銃の音が減った。
一部は撃ち合っているが、もう命の危険はなさそうだ。
「おう、ご苦労さん」
インカム越しにねぎらいの言葉をかける男が立ち上がる。
耳を済ませても、耳鳴りがひどくて聞こえにくいが、銃声は消えていた。
「さて、お前はこっちだ」
ひょいっと首筋を摘まれる。猫のように襟を掴まれたまま、オレは連行された。
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