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木の上の女神
紫音は一人湯船に静かに佇んだ。
―――世界は無音だった。
涙が流れた。意味も無く無性に悲しかった。無限の寂しさがどこまでもどこまでも紫音の心の中に広がっていく。
「あなた、泣いているのね」
カミュゥが顔を覗かせた。
「悲しみでいっぱいなんだ」
「何がそんなに悲しいの」
「全てさ」
「そう」
「とても寂しいんだ」
「いいところに連れてってあげるわ」
紫音は涙でぼやけた視界でカミュゥを見上げた。
―――「ここよ」
そこには何もなかった。
「何もないよ」
「よく見て」
草原の真ん中に大きな木が一本だけ立っていた。二人はその木の下まで行った。
「木の上の女神よ」
カミュゥが木の上を見上げた。
「木の上の女神?」
紫音もその木を見上げると、女がそこにいた。ごく普通の女だった。
「君は木の上の女神?」
「そうよ」
「なんで君は木の上に住んでいるんだい」
「木の上の女神だからよ」
「なぜ君は木の上の女神なんだい」
「知らないわ」
風が木の上の女神の長い髪を揺らした。
「僕は天使に会いたいんだ」
「お安い御用よ」
木の上の女神は初めて笑顔を見せた。
小型のヘリコプターが遠くの空から、カラカラと軽い音を辺りに響かせながら近づいてきた。
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