455人が本棚に入れています
本棚に追加
/45ページ
「ねぇ、君いくつ?」「ノンケなの?」「彼氏と来たの?」
夕食の時間になり、食堂にはパーティーの参加者たちが集まっていた。
五十嵐の隣に座り食事をとっている愛斗には次から次に質問が飛んでくる。
注文したパスタはフォークに巻き付いたまま口に運ぶ隙さえ与えてもらえない。
「……えっと……」
三人の男に囲まれて助け舟を求めるように五十嵐を見るが、彼は既に隣に座る女の子に夢中らしく愛斗の事など忘れているようだ。
人づきあいの得意な五十嵐と違い、愛斗は初対面の相手との会話が苦手だ。
それは幼い頃からだった。
家族やごくごく親しい友人くらいとしか会話ができず、「顔はいいのに愛想がなくて残念な子」とよく言われていた。
どうも愛斗は愛想笑いやコミュニケーション能力などのスキルは全くないらしい。
それでもいいと言ってくれた人が昔、一人だけいた。
「何も変えなくていい。愛斗はそのままで充分だよ」
愛斗が小学生の頃だった。
愛想が悪くてクラスメイトを怒らせてしまい、落ち込んでいた愛斗を慰めてくれたのが近所に住んでいた叔父の雪生(ゆきお)だった。
愛斗の父親と十歳も年の離れた弟の雪生は、若くてかっこよくて叔父というよりは兄に近かった。
雪生は愛斗の憧れだった。
優れた容姿はもちろん、頭脳明晰、スポーツ万能、清潔感があって爽やかな雪生は愛斗の自慢の叔父だった。
何より雪生は誰よりも愛斗に優しく接してくれた。
人間関係が上手くいかなくて自分に劣等感を抱いていた愛斗に、愛斗は愛斗のままでいいと言ってくれたのだ。
そんな雪生に愛斗はいつしか恋ごころを抱いていた。
今思えば、自分がゲイである事に気づいたのはこの頃かもしれない。
しかし、愛斗が想いを伝える事もなく雪生は大学卒業とともに突然どこかへ引っ越していってしまった。
誰にも行き先を告げず姿を消したまま、未だに彼が何をしてどこに住んでいるのかさえわからない。
最初のコメントを投稿しよう!