第2章    すれ違い

3/3
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
 私んちはインコがいる。幼い頃、父がセキセイインコの(ひな)を飼ってくれた。 私はパパっ子だと思う。いつもまとわりついてた。 「みゆ!」父だけが呼ぶ私の愛称。その父も、もう居ない。 インコの世話をして、集会場に走る。みんな集まっている、いや人だかり? 「遅れてすみません」 見ると兄がいる、その隣は。 かき分け進んだ先に、あの人がいた。変わってない、大学生の頃のまま。 メガネの奥の優しい瞳、温かな空気。 「こいつ昨夜、引っ越してきたんだ。お前それより遅い! バイトあるから、行くぞ」 兄に代わって、私があの人の隣に座る。 「久し振り。変わったね、いや大人になった」と悪びれない声。 ドキン!胸が高鳴る、彼に聞こえませんように。 中学から変わらない、なぜ私はこうなんだろう。 「それじゃ、そういう事で」 私の隣で彼が、ちょっと待って!と言う。 「引っ越してすぐに、会計はないでしょう?」 「いや、実はみゆきちゃんの兄の推薦(すいせん)でね。これからは自分の代わりに 妹が出るから、君に妹を支えて欲しいって」 はぁ?と、彼と私の声が重なる。  集会場を後に、携帯で兄に聞く。隣で彼が、ちくしょう!と言う。 「交替と言ったでしょ」 兄は、うちの集合住宅は老人が多いだろ?このままじゃ俺が会長に されると言う。(すで)に兄は会計だ。あり得る。 私も何かやらされそう。来年は彼が会長で私が会計かも。  帰宅すると母は寝ている。12時を回っても、兄は帰らない。 なんと朝帰り。 「どこに行ってたのよ」 「遼の所で飲んでた。会長達も集まって歓迎会」 「遼?」 「阿笠遼太郎(あがさ りょうたろう)、知ってるだろ」 彼のフルネームを初めて知った。いつも遼と兄は呼ぶ。 うちは老人だらけだろ、若者が入って会長達は、これ幸いと兄は言う。 それで彼の周りに人が集まってたんだ。 会長に彼のことを耳打ちしたんだろう。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!