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秋山拓也の死を知ったのは、ある暑い夏の終わりだった。ニュースは連日のように熱中症による死亡リスクを警告していた。 死因は餓死だった。拓也の遺体はミイラのような状態で発見された。自室の椅子にひっそりと座り、静かに佇んでいるその姿は、瞑想しているようも見えたという。彼の胃の中には何も残されていなかった。そのほかに目立った外傷や、疾病はなし。警察は事件性はなしと判断し、早々と捜査を切り上げた。 母親の話によれば、拒食症の傾向はなかったらしい。ただ、ある日彼は「食事を断つ」と宣言した。それ以来、いくら食べ物を進めても、彼は一切口にしなくなったそうだ。 私は地元で小学校の教師をしている。今年、32歳になった。結婚はしているが、子供はない。両親から催促されることもあるが、まだ踏ん切りがつかないでいる。夫はそれでも構わないと言ってくれているが......。 たぶん、この気持ちには問題がある。 私は拓也が好きだった。夫に出会う、ずっと前からだ。拓也と私は実家が近く、子供の頃は毎日のように遊んでいた。私は「将来は拓也くんのお嫁さんになる」と公言していた。あくまで子供の言葉であり、そこに拘束力のようなものはない。それでも私と拓也の両親は、私達が一緒になることを、なんとなく期待していたように思う。
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