isolated

2/9
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
拓也は「神童」だった。学校のテストでは常にトップだった。高校生の頃に、彼が統一模試で打ち立てた記録は、未だ破られていない。絵も得意で、夏休みの宿題などは、全て何らかの賞をとり市民ホールや公民館に展示された。 後にも先にも、あれほどの知性を持った人間を、私は見たことがない。それに加え、拓也の父親は名のある高級官僚だった。非常に保守的な考え方をする人だったが、恐ろしいほど行動的で、実務もできた。そんなわけで、拓也の将来は約束されているように見えた。誰もが成功を疑わなかった。 歯車が狂い始めたのは、大学生の頃だ。四年生になっても、拓也は進路を決めなかった。就職もせず、博士コースに進むこともなかった。拓也の父親と親交のあるいくつかの企業が、就職を勧めた。大学の研究室からもいくつかのオファーがあった。拓也の卒論は海外でも注目されており、留学の話も出ていたらしい。 それらのオファーを全て蹴り、拓也は自室に閉じ籠ることを選択した。理由は分からない。私は彼の母親から何度も相談を受けた。でも、何も答えることができなかった。私と拓也の関係は、高校生の時に終わっていた。私の能力では、拓也の進んだ大学には到底入ることができなかった。そんな私に拓也を理解することなど、できるわけがない。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!