#1 月が満ちたとき

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 いつかの月に似ていた。  あのとき、私は月を見上げて泣いていた。最期に見る月みたいだった。  けれど、いつのことかは思い出せない。  時計は新しい日付へと刻々と近付いていた。  我に返りヒールを鳴らしながら、足早に駅へと向かった。  なんとか終電前の電車に滑り込んだ。案の定、車内は満員。  人波に揉まれ座ることも出来ず、疲労困憊の体にトドメを刺すようで、つま先はビリビリと痛かった。  電車を降りて改札へ続く階段を降りていると、足首を捻り階段を踏み外した。  体勢を戻そうとするが、時すでに遅し。  体は大きく傾き、重力とともに落ちていった。  「あっ」  咄嗟にギュッと目を瞑った。  すると、固く冷たいコンクリートではなく、なにかが私を包み込むように受け止めた。  ゆっくりと目を開くと、若い男性の顔が目の前にあった。  透き通った白い肌、長いまつげ、黒い髪。  今までにあったことないくらいの整った顔立ちで、心臓が勢いよく動き出した。  「大丈夫?」  私を覗き込む彼の瞳には、吸い込まれてしまいそうな引力があった。  一瞬で、恋に堕ちた。
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