104人が本棚に入れています
本棚に追加
/165ページ
#1 月が満ちたとき
東京って、どうしてこんなに人が多いの。
どこ歩いても、人、人、人。
毎日どこかでお祭りしているみたい。
人ごみは苦手。でも、東京は嫌いじゃない。
だって、一人ぼっちでもいられるから。
育った場所が嫌いで、私は大学進学とともに上京した。
ただ、居場所が欲しかった。
大学生活それなりに楽しかった。友達も、彼氏もいた。
でも、満たされることはなかった。
周りに合わせていい人を演じているだけで、本当の気持ちはいつも喉の奥にあった。
ゴクンと喉を鳴らし飲み込んだものは、胸の辺りで苦いものを残した。
就職してからもそうだ。
とりあえず笑っていようと、口角だけ上げて嘘の仮面を被って日々をやり過ごしていた。
結局、私の居場所は今もないまま。
明日は土曜日。
待ち焦がれていた金曜の夜に、残業だなんて。
昨日借りてきた映画のDVDを観ようと思っていたのに。まあ、明日観ればいいか。
どうせ、週末予定なかったし。
会社を出ると、夜空には眩しいくらいの光の満月が浮かんでいた。
空なんてあまり見上げないのに、つい足が止まった。
それは今にも落ちて来そうなほど大きく、鳥肌が立つほど美しく妖艶に光っていた。
最初のコメントを投稿しよう!