#1 月が満ちたとき

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#1 月が満ちたとき

 東京って、どうしてこんなに人が多いの。  どこ歩いても、人、人、人。  毎日どこかでお祭りしているみたい。  人ごみは苦手。でも、東京は嫌いじゃない。  だって、一人ぼっちでもいられるから。  育った場所が嫌いで、私は大学進学とともに上京した。  ただ、居場所が欲しかった。  大学生活それなりに楽しかった。友達も、彼氏もいた。  でも、満たされることはなかった。  周りに合わせていい人を演じているだけで、本当の気持ちはいつも喉の奥にあった。  ゴクンと喉を鳴らし飲み込んだものは、胸の辺りで苦いものを残した。  就職してからもそうだ。  とりあえず笑っていようと、口角だけ上げて嘘の仮面を被って日々をやり過ごしていた。  結局、私の居場所は今もないまま。  明日は土曜日。  待ち焦がれていた金曜の夜に、残業だなんて。  昨日借りてきた映画のDVDを観ようと思っていたのに。まあ、明日観ればいいか。  どうせ、週末予定なかったし。  会社を出ると、夜空には眩しいくらいの光の満月が浮かんでいた。  空なんてあまり見上げないのに、つい足が止まった。  それは今にも落ちて来そうなほど大きく、鳥肌が立つほど美しく妖艶に光っていた。     
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