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そんな時一部の貴族らが湧きたつような声が上がった。
「何?」
ウォータースクリーンをみると、今はソーヤの試合相手が決まる試合を戦っているところだった。
今画面で戦っているのは黒牙騎士団と黒刃騎士団だ。これで勝った方がソーヤの相手だ。
「なんか、どっちも似た名前だね」
思わずつぶやくと、三人が笑い出した。
なんだろうと聞き返すと、彼らは大会中に急きょ名前を変えたらしい。
「どうして名前を変えたの?」
「黒翼騎士団の影響だ」
「え?」
「奴らの名前は元々、鋭牙騎士団と聖刃騎士団と言う名前だった。だがニーナの試合を見てから急きょ名前変更を申請したらしい」
なるほど、見事に被ったってわけか。
こちらの世界にもパクリはあるのか。
世界は変わっても人間は変わらないんだね
「ふうん」
紅茶を飲みながら適当に答えると、キールが不思議そうに聞いてきた。
「ふーんって……ニーナ姉さまは、嫌じゃないんですか?」
「え、なんで? 名前くらい別にいいんじゃないのかな」
俺が答えると皆ぽかんとした。
意味が分からん。
するとアシュレイが補足をしてくれた
「本来名の一部を借り受ける場合は、当人への許可を取るのがマナーなのです。この場合はお嬢様か、旦那様への許可を取る必要があります」
へえ、そうなんだ。
個人情報や著作権とか、そういうものが緩々な印象のある異世界だから、その辺も緩いのかと思っていた。
俺個人としては別にいいんじゃないの? って感じだったのだが、続けてアシュレイが説明する。
「酷い場合だと、名前をそっくりそのまま真似て汚名を被せるという事例も昔ありましたので、ここは強く指摘された方が良いかと」
あ、それは普通に困る。
「でも、名前に黒なんて入れてるだけで言えるものかな?」
俺の質問にアシュレイが僅かに歩み寄り、教えてくれた。
「問題ありません、彼らが名前を変えた事を知った時点で過去四十年の資料を調べましたが、騎士団に黒という名称を付けたのは黒翼騎士団が初めてです。
よって、連鎖的に黒を名乗る彼らは明らかに真似ていると言ってもいいでしょう。仮にそうでなくても、印象が被る上に事前報告がなかったと指摘すればこちらの正当性が通ります」
なるほど、それでさっきのマナーが関わって来るのか。
「でも過去四十年の資料って、いつの間に?」
「昨夜パーティーの席で、従者仲間の方々が『名を真似ようとしている騎士団がいる』と教えてくださったのです。そこで彼らの協力を得て過去の情報を洗っておきました」
ああ、なるほど。
彼ら貴族の従者は元々高い情報処理能力を持っている。
いかなる時も、使える主をサポートするためだ。
そんな彼らが横のつながりを持ち、協力しあって一つの事を調べればさほど時間が掛かる事は無いだろう。
そして昨夜のパーティーには相応の人数が参加していた、その従者も同じだ。
きっとアシュレイは彼らの協力を得たんだろう。
「今度、お手伝いしてもらった方々にお礼をしないとね」
そういうと、アシュレイは嬉しそうに頭を下げた。
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