それをデートとは言わない

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「どうせこんなところで一人寂しく紅茶飲んでるだけなんでしょ?だったら遊びに行こうよ。」 「一人じゃなくて葵もいる。あと、お前らと遊びに行くより読書をしていた方が俺は楽しいので断る。」 「一人のようなもんじゃん。行こうよ。」  それはなかなか酷いな。  葵は寝てても存在感はある。  ただ、葵は寝てても起きてても一人の印象が強いので、自動的に俺も一人に見えるだけだ。  しかし、俺は断る以外の選択肢はないので、もう一度口を開こうとしたが、それより前に侑李が出てきた。 「五十鈴、従わないならば、あのことを話しますよ?」 「は?」  にっこり笑ってこちらを見てくる。  いい笑顔なので、性格の悪いことを考えていることは確かだ。  弱みの話かな?  小さい頃の話なら、心当たりがありすぎる。 「10歳の頃でしたっけね。あなたが勝手に家から抜け出して──……」 「ついて行ってやるから、それ以上言うな!」  ばっと侑李の口を塞ぐ。  そこまで言っただけで、侑李が何を言おうとしているのかわかった。  俺の予想ではかなりヤバイ部類のやつだと思うので、それ以上は聞かせられない。 「いいでしょう。ならば、私の口からはこれ以上はなにも言いません。」  上手く乗せられた気がして頬がひきつったが、侑李の顔を見て何かを言う気は失せた。 「え~、オレはリンちゃんの小さい頃の話、聞いてみたかったなぁ。」 「会計さんだけには聞かせたくないですね。」  リンちゃんというのは俺の渾名だ。  五十鈴だから(リン)だそうだ。  会計がつけて、双子まで面白がって呼んでくるのだ。  この渾名をつけてくるやつは、一定数いるのだが、あまり好きではないので勘弁して欲しい。  会計と双子はしぶとくて、もう既に訂正する気も無くなっているのだが。  とりあえず、葵を起こすか。 「葵、起きろ。出かけるぞ。」  すると、葵が目を開けた。  とても不機嫌なのは見ればわかる。 「……あのさ、弱み握られて勢いで返事したのに巻き込まないでよ。」  やっぱりずっと起きてて全部聞いてたのかよ。  それにもうここまで来たら、巻き込まないという選択肢はない。  大人しく諦めるんだな。
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