ある日、ワンコを拾いました

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 そんな様子を眺めながら、俺は頃合いを見計り思い付きを発する。 「うん。そうだな。お前は“小太郎”だ」  さも今思い付いたみたいに言ったが、実を言えばこの名前はずっと前から決めていたものだった。  なぜか、この子と顔を会わせる度に、この名前が頭に浮かぶようになっていた。だから、もし飼えるようなことになれたら、“小太郎”と名付けようと考えていた。とは言え、洋犬の血が混じっているであろう子犬に、こんな純和風で素朴な名前はどうだろうか? 一応、本人にお伺いをたてようかと思うが、……そうする必要はなかった。子犬は“小太郎”という言葉が自分の名前だと理解しているのか、試しに「小太郎」と呼んでみるとキャンキャンと鳴き、尻尾をブンブンと振り回し胸の上で暴れた。それは、拒否というよりも、全身で喜びを表現しているみたいだった。 「気に入ったのか? じゃあ、今日からお前は“小太郎”だっ!」  と、改めて言うと、小太郎は返事でもするみたいに大きな声で鳴いた。 「さて、名前も決まったし、次はこの部屋での暮らし方を勉強しような」  胸の上から小太郎を下ろし立ち上がり、部屋の角に設置してあるケージに向かう。小太郎に自分の部屋とトイレを教えるためだ。  まだ子犬だと思っていたが、実際は生後一年は経過しているらしい小太郎。しつけをするのに年齢は関係ないと言われているけど、やはり早いに越したことはない。すでに一歳を迎えているであろ小太郎に、これからトイレやなんかを教えるのは根気が必要かもしれない。  しかし、命名と同様にこちらも覚悟は必要なさそうだった。  動物病院で湊先生たちも言っていたけと、小太郎は本当に賢かった。自分の寝床も分かっているようで、誰の匂いもついていない真新しいベッドに素直に寝転んだり、「ここがトイレだよ」と教えたシートの上で迷うことなくオシッコもしていた。  何と言うか、小太郎には驚かされてばかりだった。もしかしたら病院で教えられていたのかもしれないけど、それを抜きにしても物覚えが良すぎだった。少しばかり恐ろしくもあるが、それを気にさせない魅力が小太郎にはあった。  俺は賢い小太郎をべた褒めし、くたくたになるまで遊びまくった。
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