2 ホテル『三匹の猫』へようこそ

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 一歩足を踏み入れたそこは明るく広々としたロビーで、確かにその点だけでも秋川のラブホ観(入ると薄暗くて、ひっそりとしている。 受付は無人の場合もあり)は覆された。  更にフロントには人が居て、 「オテル・ド・トロワシャーへようこそいらっしゃいました。ご予約の方ですか?」 と、挨拶をしてくる様はシティホテルと何ら変わりない。 想像に裏切られて呆気に取られている秋川をそのままにして、瀬田はフロントへと歩み寄って行った。  (そう多くはないが)ラブホに入って手持ち無沙汰だったことは、秋川は初めてだった。  過去には一事が万事、最初から最後まで率先して行なっていたつもりだった。それが男としては当たり前だと思っていた。  瀬田と付き合うのが当たり前ではない。というわけではないが、何となく落ち着かなかった。  瀬田がフロントの男に予約をした旨を伝えると、タブレット端末が手渡された。 「インペリアルスイートは10Fとなります。どうぞ、あちらのエレベーターをお使いください」 「ありがとう」 「ごゆっくりとお過ごしください」  瀬田へと応対する男は、その言葉にも態度にもイヤミなところを全く感じさせず、秋川に接客のプロを思わせた。      
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