【4】

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【4】 羊羮(ようかん)の甘味を口いっぱいで感じてから、緑茶をすすった。疲れた時は甘いものに限る。いや、羊羮に限る。羊羮と書いてしあわせと読みたい。海藤優子は肩を押さえながら首をぐるぐる回した。 「ねえ、優子。バディの刑事さんはどこに行ったの? 天沢さんだよね」 珠子(たまこ)が海藤の隣に座った。回転椅子で半円を描き揺れる。 海藤と同じ生活安全課で、情報係を担当している。海藤のスマートフォンに、藍田達のイジメの動画を送った人物だ。海藤の二年先輩になる。女同士、プライベートでも付き合いがある。 「平井橋に行ってるみたいですよ。殺害現場をもう一度見たいって」 「ふうん。マイペースな刑事ね」 「カイちゃんは三人の事情聴取に立ち合っててくれ。だって」 「カイちゃん? ぷっ。そう呼ばれてんの?」 「初対面で呼ばれたんで面食らいましたよ。警視庁の捜査一課のデカだから、もっと堅苦しい人かな、って思ってたら」 「ま、でも。そういう人で良かったんじゃない? 優子って緊張しいだしね」 そうですけど、と海藤は緑茶のペットボトルに口をつけた。 珠子は周囲に首を向けると、海藤にひそひそ話をした。 「これ、噂だけどね。天沢さん、幼い頃に、母親を殺されたみたいよ。犯人はいまだに逃走中らしいわ」 「そ、そうなんですか」 「確かな筋よ」 情報屋のように小芝居をうつと、珠子は顔をキメた。しかし、すぐに顔を崩した。 「そうだ。あの三人の取り調べはどうだったの?」  "あの三人"が指すのは、容疑をかけられている藍田、鈴木、西脇だ。 「先ほど終わったんですが、断固容疑を否認してます」
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