Chapter 11

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学生時代、妻は姉に(なら)ってテニス部だったそうだ。 彼女の姉、清香の家族(つまり、水島家のことだが) はみんなテニス好きで、休日には一家で楽しんでいるらしい。 すると、「おねえちゃまの家はいいなぁ、家族で楽しそう。うちもやりたいなぁ」と妻が羨ましがったので、うちもコートを借りて家族でテニスをすることになった。 ……あれは、大地が悪いのだ。 当時、中学生だった息子は、中高一貫の男子校に通っていたが、サッカー部に所属していたにもかかわらず、周りがヒョロい秀才ばかりだったため、いろんな運動部に「助っ人」として駆り出されていた。その中には、従兄弟(いとこ)の慶人から頼まれたテニス部もあった。ヤツはおれに似て運動神経がすこぶる良い。 とりあえず、大地 vs おれ&紗香でストロークを行なうことになったのだが。 ……大地のヤツ、いきなりおれに対して、弾丸サーブを打ち込んできやがった。 そっちがその気なら、こっちは「親父の威厳」を見せつけてやらねばならぬ。 咄嗟(とっさ)にそう思ったおれは、思いっきり取りづらい角度にリターンしてやった。 おれも若い頃、サッカー部だったにもかかわらず、水島に頼まれてテニス部へ助っ人に行っていたのだ。 ライン上で跳ねたスライスボールは、想定したバウンドではないはずなのに、大地はギリギリのところで打ち返してきた。 おれはそのボールが浅くなるのを見越して、するするとネットへ詰め、ラケットのフェイスをしっかり合わせてボレーをした。 今度こそ決まったか、と思われたのに、またしても大地に拾われ、しかも前に出たおれを嘲笑(あざわら)うかのような弓なりのロブショットである。 すぐさま振り向いてボールを追いかけ、打ち返す。今度はドライブをかけてやった。 すると、ヤツはカウンターでストレートに打ってきやがった。 ……そこからは、押しも押されもせぬラリーの応酬である。 水島家のような「はい、いくよー」と言ってボールをポーンと打ち、「はーい、オッケー」とボールをポーンと打ち返す、悠長なストロークなんか、我が上條家ができるはずがなかったのだ。 ものすごいスピードで行き交うボールに恐れをなした紗香が、知らぬ間にコートから去っていたのは言うまでもない。
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