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初めて彼に会った時、何て禍禍しい髪色をしているのだろうと思った。金銀に輝く瞳は畏怖をいだかせるほどどこまでも清く澄んでいた。しかしそれは彼のさだめからくるもので、本当の彼は、絹糸のように柔で、それでいて強い輝きを宿していた。己とは違うな、と思った。同じだと思って近づいた己が何ともみじめであった。しかし私のその思いすらも、彼はその瞳の内にとかしこんでしまった。私は、悲しかった。縛られている彼を思うと、哀れでならなかった。それが身勝手で彼を傷つける行為であったことを知ったのは、ずっとあとになってからのことだった。 眼を閉じるといつも思いだされるのは、彼の笑顔だった。悲しげな笑みは、私の心をうずかせたけれども、やさしい灯をもともしてくれた。その灯が不安の色をうつすようになったのは、いつのころからだったろう。それは時に彼の髪色のように赤々と燃え上がり、私の胸を焦がした。しかし、それが、彼と共に生きるということであるなら、受け入れようと思った。それすらも過ちであることを、私は自覚することができなかった。力があるのに傍観することしかしなかった私と、力がなく傍観することしかかなわなかった彼との差は、今となってはもう埋めることもかなわない。さだめに逆らい、存在意義を示そうとした彼は、いかなる傍観者とも違い、施政者よりも世界に導きをあたえた、英雄であったと私は思う。しかし、それを知るものは、私をおいてはいないのだ。 天上には金色に輝く太陽と、空の蒼にほのかに色をおとした白色の月が浮かび、それをとらえんとするように、地上からは赤々と炎があがっている。私はなおも傍観している。彼が守りたかったものが壊れていくのを私はただ見ていた。彼がいない世界を生かす意味などないと思った。世界を生かすことが彼の遺志だとしても、彼が生きることを許さなかった世界を許すことなど、できなかった。それが彼に対する最大の裏切りであるとしても、私には己の心が傷つく恐れをふりほどき、彼の思いをつぐ勇気はもてなかった。私が守りたかったのは結局自己でしかなかった。彼はそんな私に幻滅しているだろうか。
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