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――黒月。 懐かしい彼の声が響いてきて、私は、ああ、何だ、と答えた。 私の話を聞いてくれるか、と彼の声が切なげに問う。私は、ああ、と答えた。 彼は、話を終えると、私をうらむか、と問うた。私は、いや、うらみなど全く抱いていない、ますます好きになった、と答えた。そうか、と言ったのを最後に、彼の声はきこえなくなった。 そして気がつくと私は、光の世界の内にいた。 ――烏羽玉。 だれかが私をよばう声がした。聞き覚えがあるその声の主に私は、紅日は、と問う。その声の主は、私の胸をそっと指でふれた。私は、己の小さな手で、その場所にふれる。私はそこに、彼を感じ、安堵に眼をとじた。すると、その瞬間、何かが私の身を包みこむ気配がし、それが離れるのと同時に、私の内に彼の存在が感じられなくなった。何事がおこったのか理解できぬまま私が眼を開くと、私の身は先程とは別の場所にあった。あたりを見渡す暇もなく私の意識は遠のき、別の意識が占めていくのを感じた。ああ、私は、ここで終わるのだ、と思った。せめて、彼との記憶だけは、残ってほしい――。そう私は、切に願った。その願いがかなえられたのか知ることは永劫かなわぬとしても、彼の記憶が残るのなら、その記憶が、私と彼とを再びつないでくれよう、と思った。彼さえ存在していてくれるのならば、私は、その内で永劫生き続けることができる。それが、私にとっての永遠、幸せの形だ。たとえその道しか望めなかったのだとしても、己の意志でその道を選びとったのだと思いたい。その思いすらもはかなく消えゆく運命ならば、なげく暇すらも、彼を想うことにささげたい。みかえりはもとめないなどおこがましいことは言わない。できることなら、この私のままで、再び彼と出会い、共に生き、共に果てたい。そんなわがままを抱く心をもつがゆえに、私は彼と引き離されたのだろうか。布がほつれていくように意識が闇の内に沈んでゆく。私が欲しかったもの、知らずに手に入れていたもの、これが、愛というものか。だれもが生まれた時から胸に抱きながら、鍵がなければ存在を知ることがかなわない、宝箱の中の宝玉。その宝玉が輝きを変化させる様を、もっと見ていたかった。彼にもそれを見ていてほしかった。涙が一筋ほほを伝う。その感覚を最後に私の意識は空になった。
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