彼女に花束を

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彼女に花束を

 生々しい死の、"生"が失われて行く鉄の匂いに咽ぶ。アスファルトに赤が飛び散っていて、染み入っていく。それに呼応するようにざわめきだす群衆。遠巻きに雑多な目が、目が、目がそれを見つめて、喧騒を形成していく。  当の僕はというと夏の暑さのせいか、汗を大量に掻きそれを見つめている。夢だと思いたいのに、揺らめく陽炎が、滴る汗が、ヒリヒリとした実感を伴っていて、鬱陶しいまでに現実だと突きつけてくる。  僕は夢遊病者の様な足取りで、アスファルトと喧騒に混ざりあった真っ赤っ赤な現実にすがりつくかの如く近づいて、少し前まで生きていたそれと、手を繋ごうとして――。
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