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「グリーンゾーンはご存知の通り、非戦闘地域。ハノン大将はよくディスタンシアのシナモンティーをグリーンゾーンで買っていました。私は彼とそこで出会うことがあったので、軍の事や家族のこと、ミズキのことなどいろいろ話し、彼を説得もしました」
「説得だと? 何の説得だ」
「クラリスに戻る気はないのか、と」
「……っ」
クラウスが絶句する。
自分はずっと親友の帰還を信じていた。戦争が終わってもなお、生きているか死んでいるかも定かではない深憂。それでも自分と可愛い娘を遺したままにはしないと、今も信じている。
「あいつは……何と答えたんだ。戻るのか、戻らないのか。あいつは何と答えた」
アルベルトはきっと、ディスタンシアで何か極秘の任務に当たっているだけだ。だから戻れないのだ。何につけても仕事優先の男だったから――きっとそうだ。
ミハイルは目をわずかに伏せ、ややあって重い口を開いた。
「クラリスには……戻らない、と」
「なぜだぁ!!」
クラウスはミズキを突き飛ばし、その場に立ち上がる。
「なぜあいつはあんな薄汚い国に留まる!? あんな国に何があるというんだ!」
「私にもわかりません」
「あんな瓦礫ばかりの国に、あいつの心を掴むものがあるというのか!? いや、そんなはずはない。あの国は、こんな風に人の心を惑わす魔物を生み出した国じゃないか!」
クラウスはまくしたてると、銃口を床に転がるミズキに向けた。
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