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 母は兄を愛している。兄のことだけを愛している。母がそのことをわたしに宣言したのは、わたしが小学校に上がってから。が、そのとき、わたしは既に知っている。母が兄だけを愛しているということを……。だから、わたしは遂にそれが正式になった、と思っただけ。母はそのときまで、わたしを苛めはしないが、可愛がってもいない。単に自分に必要な駒だ、と考えていたのだろう。  兄は身体が弱い。先天的に健康に恵まれていない。母も身体が弱い。だから兄の病弱は母譲りだろう。わたしと兄の父親は、もうこの世にいないが、頑丈な人だったと母方の叔母から聞いている。不幸な事故に遭わなければ父は長生きしたかもしれない。けれども死ぬ運命と決まっていたか。父には可哀想だが、それが運命ならば、変えることはできない。  兄が先天的に病弱だと知り、自分も病弱な母は、わたしを生む決心をする。兄が四歳になったときだ。自分が他界した後、兄の世話を焼かせるために……。そのためだけに母はわたしを生み、育てる。だから、わたしの子供時代は地獄絵図。親に愛されない子供は、この世にはいくらでもいるし、親に虐待される子供や、更には親に殺される子供までいる。     
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