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1.鬼ごっこ、しませんか?
「お兄さん何してるの?」
突如背後から聞こえた声に思わずビクッと身体を震わせる。振り返ると、大きなリュックを背負った少女が立っていた。
月に照らされたショートボブの黒髪、暗闇で大きくなる黒目。セーラー服を着ている少女は中学生に見える。
リュックの重さに負けじと、前屈みになる姿は重心が傾いてヨロヨロと倒れそうだった。
「その自転車、お兄さんのもの?」
「……そうだよ」
まさか盗んできたとは言えない。
「へー、青いのかっこいいね」
「そうかな……」
受け答えしないで逃げれば良かった、と思った。
自分の物ではないから、上手く反応することが出来なかった。
実際自転車のデザインはどうでも良い。色合いがどうとか、そういうことは関係ない。
ただ鍵をかけ忘れた自転車を選んだだけだ。
橋の近くまで行くことが出来れば、後はどうでも良かった。
「それより君こそ、こんな夜遅い時間まで部活かい? 寄り道しないで帰るんだよ」
地域に居る人が言いそうな言葉を選んで話す。少女は周りをキョロキョロと見回して「ふーん」と呟いた。
「お兄さん死ぬの?」
向日葵が一面に開花したように微笑んだ。
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