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 通勤ラッシュの満員電車に乗り込み、立った状態のまま右足を貧乏ゆすりのように動かした。私は今日もまた、機嫌の悪さを外に向けてアピールしている。こんなことをしても状況は変わらないばかりか、後に残るものは得体の知れない疲れと自己嫌悪だけだと分かっていても、いつも我慢することが出来なかった。  ふいに、肩や腕をぴたりと密着させていた隣の男が動く気配を感じた。首を回すと、男も短すぎる首を私と反対方向に回し、こちらを見ていた。私の右足を見て、私の顔を見て、その健やかに整った容姿を見つけて、戸惑っているのだろうと思った。  私が男を睨みつけると、男は面食らった様子で、だがすぐに不審な者を見た時のように眉を顰め、唇のなかでだけ小さく何か呟くと、短すぎる首は元ある場所へと戻っていった。  どのような人間も、大体いつも同じような反応をする。動く右足が気に障りこちらを見るが、次の瞬間には、え?と不思議そうな顔をしている。予想していた人物像とは違った。そういうことだろう。  コートのポケットから徐に携帯を取り出す。誰からも連絡の来ないそれは、このままどのボタンも押さなければ、永遠に死に続ける物体なのだと思った。私は真剣に、死んだ画面に映る自分の顔を確認した。自分で睨んでおいて変な話だが、少しでも睨んでいないように見えればいいと思った。
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