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「──海辺で話をしてるときに、ゾルフィンの手の奴らに襲われた。不意打ちで撃たれて、防ぎようがなかった。水ぎわにいた翼がはじめに撃たれて波に攫われた。すぐさま海に飛びこんで、翼を抱きかかえて逃げて、やっとの思いで追っ手をふりきった。どうやってドームの入り口までたどりついたのか憶えてない。あとは、オート・ドライブの無人タクシーをつかまえて、ここまで戻ってきた」
「いやだ、うそでしょう……」
想像以上の内容に、デリンジャーは口許を手で覆った。
「こんな状態で、海水にまで浸かってるですって? それであたしに治療しろって?」
これまで見せたこともないような絶望的な表情とその声色に、皆の緊張した視線が一手にデリンジャーへと集中した。
「おい、そいつはそんなにまずいことなのか?」
一同を代表してザイアッドが質問する。デリンジャーはそれに対し、ありのままの所見を述べた。
「正直、最新の医療設備が整ってる《首都》の総合病院でも、治療は難しいでしょうね。最高のスタッフをそろえたとしても、よ。それなのに、こんな応急手当が精一杯の道具しかそろってないとこで、あたしひとりになにができるっていうの? 薬品だって量も種類も足りないもいいとこじゃない。ひとりでももてあますのに、それがふたりよ! これだけの重傷負ってたら、ゲート通過時の滅菌処理なんて気休めにもならないわっ。エタノール1本で体内にまわった毒素が消せる? 市販薬程度の薬で菌が殺せる? 数本のメスとハサミとピンセット、たったそれだけの治療器具で、何時間もかかるような手術ができると思う? 手に負えるわけないじゃない! あたしは神様じゃないのよ? どうにかしてあげたくても限界があるのよっ」
苛立ちと焦燥が頂点に達して、デリンジャーはついに感情を爆発させた。その反応が、事態の深刻さをなによりも如実に物語っていた。
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