第1章

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 磁場がおかしいとか、海面上昇が著しいとか、今まで解読されなかった古代文書には予言が書かれていたとか。はじめのうちこそ各分野の研究者がこぞって根拠を出していたものの、それらは全て前例の通り――結局何も起こらずに過ぎ去った「大予言」と同じ末路を辿るだけだろうと鼻で笑っていた。私以外の人も、少なくとも表面上は同じようなリアクションだった。信じていたのは、オカルトに傾倒した人ばかりだった。  でも、ある日を境に、鼻で笑っていたものを信じざるを得なくなった。  ちょうど一ヶ月前にあたる、九月十八日。  世界中の空と海は、真っ赤に染まった。  私たち人類に終末の到来を実感させるには、それで事足りた。  その頃には、放送局は各々が手にした情報を好き勝手に垂れ流していたので、既に正確性など無くなっていた。まだ視聴率なんてものにしがみついて悪戯に不安を煽るところもあれば、根拠のない希望的観測を繰り返し続けるところもあった。  その中に一つだけ、誰もが縋りたくなる情報が混ざっていた。  国の偉い人たち専用に作られた大規模災害用のシェルターが、民間人の受け入れを開始したという。  人々の行動は早かった。食料、電気、治安。心配事はいくらでもあり、最低限の安全が確保されるであろうシェルターを求める人々で、首都は大混乱に陥った。人の群れが必死に救いを求める中継は、私も見ていた。その大規模な椅子取りゲームが終わったのは、「これ以上は受け入れられないとシェルターは閉鎖された」という報道によってだった。  何百人、あるいは何千人がシェルターに逃げ込めたのかは分からないが、その極一部の選ばれた人たち以外は、滅びゆく世界に取り残されたと言っていいだろう。  そして、取り残された大多数の人々――私のような人たちは、こうして様々なものが壊れた中で、それぞれの暮らしを送っている。  どこかの国では、大規模な内戦が起きているらしい。どこかの国同士では戦争が起きて、大変なことになっているらしい。この国でも、色々なものがおかしくなってしまっているらしい。  一市民でしかない私の所まで届く情報は、もはや全てが曖昧な伝聞でしかなかった。
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