意地っぱりな薬指

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「うん……。ありがとう、大好きよ、隆司」 「あのな……。それは後で二人きりの時に 言ってくれ。ここじゃあキスもできない」 しかめ面の隆司が私の額を(つつ)く。 「さあ、行くか」 「やだ、自分で歩ける。こんなの 見られたら恥ずかしいじゃないの!」 不意に抱えられて首に抱きつく私を無視して、 隆司が歩き出す。 「いいから黙って抱かれてろ。もう 隠さないって決めただろ」 「だからって、やり過ぎでしょ!」 「うるさい。これ以上暴れると今すぐ ここでキスするぞ」 「そんな、冗談言ってないで……」 「冗談言ってるように見えるか?」 彼の大真面目な顔を見て、私の抵抗は 止まった。 私を抱えたまま、隆司は中庭を横切って行く。 朝礼が終ったのか、社内がざわつき 始めていた。 私達の姿を見たら、皆は目をまん丸にして 驚くだろう。 そう思ったら、自然に口が綻んだ。 今日から私は心のままに、あなたへの想いを 隠さない。 再び指に光る、この指輪に誓って。 ビルの隙間から柔らかな日差しが差し込む。 金色に煌めくプリズムの向こうに、私達の 未来が見えるような気がした。 END
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