セルフィッシュ

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 中学三年生のわたしはとにかく飽きていた。小説や漫画に出てくるドラマティックな出来事は欠片もない、つまらない毎日。朝から晩まで平和と平凡で練りあげた金太郎飴を食べさせられるだけ。  誰もかわたしを『優等生』と呼んでいた。品行方正、成績優秀、生活態度も問題なし。三年連続で学級委員をしていたことから先生にも頼られ、『さすが委員長だ』とよく言われた。  順風満帆すぎるから飢えていたのだ。  『優等生』よりも『特別』になりたい。それは、賞賛や注目を浴びる明るい意味でも、虐げられて落とされる暗い意味の『特別』でも構わない。この凪いだ生活に波を立ててくれるのなら何でもいいと思っていた。  その放課後である。学校から家までの途中にある小さな公園。その横を通り過ぎようとした時だ。  公園の端に植えられたツツジの茂みが、ガサガサと騒がしく揺れていた。今日は柔らかな風がふく日だったのでここまで揺れるとは思えない。すぐに人がいるのだと思い至った。  青信号が点滅し赤に移り変わる。その瞬間を切り取ったかのように緑から赤へのグラデーションを纏うツツジの葉。騒がしく揺れたその場所を覗きこむと、葉の向こうに見慣れた男子制服があった。  男子生徒の瞳。わたしを責めるようなまなざしに覚えがあった。 「飛田? ここで何してるの」  口をついて出たその言葉には、恐怖心はなく、覗きこむという行為を正当化しなければと焦りが滲んでいた。  わたしに対し、飛田は気まずそうに視線を泳がせる。その手には、食べかけのパンが握られていた。ジャムや餡子が入っているものではなく、シンプルなコッペパン。頭によぎったのは給食だった。 「それって、給食のパン?」
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