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しかしながら、神様は易々と夢の出逢いを許しては下さらないようだ。
お目当てのホステスは、ちょうど今、先約の接客を始めたばかりで、直ぐには対面できないという。
でも、このときの男の心には、まだまだ十分余裕があった。
(今日は、間違いなく会えるんだ。後は、待つだけ・・・・・・。)
男は、自分にそう言い聞かせていた。
男は、テーブルだけをチャージして、他のホステスなどは付けずに待った。
待っている間、それほど広くはない店内を、男は改めてぐるりと見渡した。夢に出てきた艶やかな紅色のソファーに、暗紫色のガラステーブルが、確かに並んでいる。
(やはりあれは正夢だったのだ。夢の天女は間違いない・・・・・・。)
男はにんまりと一人でにやけていた。
気が付くと、店内をゆったりと包んでいる甘い音色のBGMは、聴き覚えのある音楽だった。70年代フュージョン音楽の隠れた名曲の一つ、Wilbert Longmireが奏でる、♪Pleasure Island♪♪。
ハイトーンのギターと、エコー掛かったエレクトリックピアノとのユニゾンがつくり出す、爽快な音宇宙がとても心地良い。その浮遊感は夢の別世界へとトリップさせてくれる。
このとき男は、大海原の難破船が永い長い漂流の末、ようやく辿り着いた『楽園の島』で、木漏れ日の中に横たわるような気分であった。
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