愛憎は紙一重 『大瀬戸 誠』

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俺には人生で一人だけ、憎くて憎くてたまらない奴がいる。 そいつは小さい頃から仲が良かった幼馴染だ。 俺より4つ上の、兄貴みたいな存在だった。 その人のことは、とても好きだった。 当時、高校三年の彼にしてみればまだ中学生の俺はガキに見えただろう。 けれど嫌な顔ひとつしないで遊んでくれて、学校終わりは決まって勉強を見てくれた。 一人っ子で、友達を作るのがそんな上手くない俺にはそれがとても嬉しかった。 嬉しくて、そんな彼がとても大切で。 だから、あの時言われた一言に物凄く傷ついた。 裏切られたと思った。俺は心の底から信頼してたのに。 それを簡単に踏みにじられたように感じた。 人生で初めて、あんなに人を憎いと思ったことはない。 その対象が、好きで好きでたまらない、とても大切な人だったとしても。 その気持ちが一瞬で覆るほどに。 めちゃくちゃにして、打ちのめしてやりたいと思った。 我慢するべきだったけれど、どうしても出来なかった。 気づいたら乱暴に服を引っ掴んで、殴り掛かって押し倒して。 馬乗りになって延々と殴り続けていた。 涙と鼻水で顔面をぐちゃぐちゃにしながら、そんな俺を見て彼は何も言わなかった。 そんな態度も気に食わなくて、そばに落ちていた子供の頭くらいある石を両手で掲げて殴りつけるその瞬間でも、俺に対してあの人は何の言葉も与えてくれなかった。 やめてくれとも、ごめんなさいも。 なにもかも。 (そう)にぃは、なんであの時抵抗もしないで殴られるがままだったんだろう? 今となってはどうでもいいことだけど、時々そうして思い出す。 もう10年も前の話なのに。
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