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一花が真っ直ぐに右手を前に伸ばし、その手の平を正面に翳すと、部屋に掛けられていた結界が弾けて消えた。
「一花……」
呆然とする伯爵を鋭い表情で見つめ返し、一花は低い声で言った。
「諦めて下さい。私は桐嶋一花。セシリアじゃない」
「一花……」
一花は今度は自分の顎から胸元にかけ、右手を滑らせた。血の跡が消える。
「私の血を口にしたことで、完全に目覚めたか……」
皮肉な笑いを浮かべ、ジェラルドは呟いた。
「今の君からは、セシリアが生きていた頃と同等の魔力を感じる」
「ええ。図らずもこんな結果となったわ。私はもう、以前の一花じゃない。あなたの言いなりにはならない」
「言いなり……?」
その場で腰を折り、ジェラルドはくっくと喉で笑った。
「君が私の言いなりだったことなど、一度としてないよ。セシリアだった時も、君は、私の命令など全く聞かなかった……」
これまで見せたことのない表情で、ジェラルドは“元妻”を睨みつけた。
「本当に、愛おしくて、愛おしくて……たまらなく、忌々しい存在だ……」
初めて本音を口にした相手を、一花は冷めた目で見返した。
「……ごめんなさい。どう言われようと、私はあなたの所有物にはなれない。……行くわ」
再び踵を返し、今度は何の邪魔をされることなく、一花は部屋を出て行った。
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