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 従業員の嫌がらせがなければそれもなかったのだと思うと、皮肉だ。それを運命などと、冊子の見出しよろしく大仰な言葉で語ろうとは思わないが。 「あいつが呪われた子と呼ばれていたことは?」  肯定の意味で頷く。 「あいつは先代が残した物をすべて作り替えようと躍起になっている。当初はどうしても改革を受け容れられない従業員をクビにもした。でも最近じゃずいぶん当たりがやわらかくなったと言われてるんだ。人間らしい睡眠時間を取るようになったからってのもあると思うけどね。僕はそれが君のおかげだと思ってる。だから本当に入隊がなかったことにならなくて良かった。ごめん。そして有り難う」  面と向かってそんなことを言われると、どうしたらいいかわからない。口に含んだオムレツライスが喉につかえてしまいそうだ。 「俺はそんな、あんたみたいな立派な人に、謝らせるようなあれじゃ……ただの、孤児だし」  もごもごと口ごもりながらどうにか米粒を嚥下する。野々宮は「僕も立派なんかじゃないよ」と苦笑した。      
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