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珠子は神父に聞いた『友の家』を探すことにした。
昨晩はがむしゃらに歩いてなんとなく知った道をたどっていたらしく教会へと着いたが、『友の家』は案外遠く、目印もなく探すのに手間取る。
道行く人に尋ねてみたが知らないと言われるばかりだった。
道端の空き地に腰を下ろし休んでいると、遠くから複数の子供の歌声が聞こえてくる。
珠子は立ち上がり声の方へ歩く。
すぐに歌声のもとにたどり着いた。
小さなバラック小屋が見え、ガラスの入っていない窓から五人ぐらいの少年少女と葉子の姿が見えた。
そっと物陰から中の様子を珠子はうかがう。
狭い部屋でひしめき合っているが、穏やかな顔で子供たちは聖歌を歌っているようだ。
優しいメロディーと清らかな歌声に珠子はしばらく耳を傾ける。
葉子の子供たちを世話する姿に、目頭を熱くし珠子は時間を立つのも忘れ見入っていたが「じゃあ、神父様のところへ行ってきますから」と葉子が小屋を出ようとするので、ハッとしまた身を隠した。
葉子が立ち去った後、一人の少年がかごをもって出てきた。
窓から少女が顔を出し、「いっぱいなってるといいね」と言い手を振る。
「きっと甘くて大きいよ」
少年は笑って返した。
どうやら食べ物の調達に行くようだ。
粗末な身なりだが清潔感のある少年は背筋を伸ばし、しっかりとした足取りで小屋の裏の方へ回った。
吉弘と同い年くらいだろうか。
珠子はこっそり後をついて行く。
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