431人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
『今、亜利紗と奏助さんのマンションにいます。奏助さんは留守で亜利紗だけなんですが、彼女の体調が悪いので、心配だから付き添います。今日はここに泊まるつもりです。明日になったら奏助さんが帰宅するので、夜に会う約束は大丈夫だと思います』
ちょっと長い文章になったと思いつつ、とりあえず送信した。
すると、すぐに一砥から折返しの電話があった。
「もしもし。花衣です」
驚いて花衣が電話に出ると、いつもの愛想のない声が「俺だ」と答える。
「亜利紗と一緒に、奏助の所にいるそうだが、亜利紗の具合が悪いというのは本当なのか」
「あ、はい……。今、隣の部屋で休んでいます」
「どうして亜利紗と……、ああ、ひょっとして、明日がバレンタインだからか」
一砥がバレンタインデーを覚えていたことが意外で、花衣は「あ、はい。そうです」と戸惑いつつ答えた。
「亜利紗と一緒に、チョコ作りをしていたんです。よく明日がバレンタインデーだって知ってましたね」
一砥は素っ気なく「まあな」とだけ言った。
毎年バレンタイン前日の十三日に、秘書の紘生から「明日はおそらく大量のチョコが届きますけど、いつも通りに処分してよろしいですか」という確認があるために、一砥も毎年、「ああ、もうバレンタインの季節か」と思うのだった。
一砥は敢えて話題を変え、「それで、亜利紗のことだが」と言った。
「実は奏助に相談されていたんだが。あいつ最近、何か悩んでいないか」
「えっ?」
最初のコメントを投稿しよう!