2.1話 《2013年 2月14日》

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そう言いながら自分の料理を取りにキッチンに戻る母さん。 「父さん最近シゲ、バイク速すぎじゃない?」 「才能かな?」 「オレには才能が無いと?」 父さんが左手で箸を取りご飯を食べ始める。 元々は右利きだった父さんはバイク事故により、左利きに変わった。 父さんはプロのバイクレーサーだった。 小学生の頃、サーキットで父さんがバイクを寝かして、オイルの匂いを撒き散らしながらコーナー駆け抜けていく姿にオレはなんてかっこいいんだと思った。 小学生になりたての10月の最終戦の最終ラップ、父さんは前のバイクを抜けば250ccクラスの総合優勝というシーンで父さんは前のバイクと張り合い、無理なライン取りから後輪がロック! そしてハイサイドを起こし、バイクに右腕が挟まれたままサーキットのコース上を引きずられ右腕を負傷した。 オレ達は日の丸の旗を振りながら父さんが帰ってくるのを観客席から待っていたが、帰って来たのは、競り合っていた相手だけだった。 オレ達家族が父さんと再会したのは病院だった。 全治3ヶ月! そんな姿で首にはコルセット、右足は釣られ、右手もギブスをつけた変わり果てた父さんだった。 父さん!と駆け寄るオレ達家族3人に、父さんは泣いていた。     
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