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A「さむいね」
B「そうかな?」
カメラを持ったその子は、私にいきなり話しかけてきた。丸ぶち眼鏡がよく似合う。
B「珍しいとは思うけど……」
今日は確かに少し冷える。今日は今年の中でも特別な日になるだろう。
A「うん! だってこんなにきらめいて──」
その子は目の前に広がる、壮大な光景を眺める。うっとりとしているが、この子は勘違いしている。この景色は、この子が想像しているものとは違う──
A「これがゆきかあ!」
B「──雹……だけどね」
A「ひょう?」
とぼけるな。
B「夏に雪が降るかよ……」
ああ、呆れた。
A「へぇ、これがなつかあ」
外国の人なのかな? 四季を知らないとなると、熱帯か高山の人かな? でも和風顔……海外育ち?
B「どこに住んでるの?」
A「パンダランド」
中国かな? あ、でも中国は四季があるし……チベット高原?
そんなことを考えていると、彼女は突然大声をあげた。
A「はっ!」
忙しい子だな。なに?
──すると、空からおびただしい数の黒い塊が落ちてくる。よく見るとそれは、おそろしいケダモノだ。
A「来たなヴィルトナ。滅!」
この子は目の前に群れる、多数の悪魔に飛びかかる。目にも留まらぬ速さで技を繰り出す彼女。回し蹴りや突きの精度は、素人目でも圧巻ものだ。悪魔たちを薙ぎ払い、蹴散らし、圧倒している。目がくらむほどに鮮やかな戦いぶりだ。
果敢に戦ったすえ、どうやら勝ったよう。黒い汚物が、岩肌にべとりとこびりつく。先ほどまでの景色が、すっかり消え去ってしまった。
A「ふぅ、あついね」
息を整えながら彼女は言う。まるで当たり前のことのように。彼女は、私の知らない当たり前を知っているんだ……。
B「……どうやら、今は冬みたい」
膝からすとんと地面に沈む。すると、鉛の体がガタガタと震えだした。
そう──まるで冬のように、肌はざらつき、不快感が骨を貫く。ああ、震えが止まらない。
これから二度とあの悪魔たちが現れませんように。堅く手を重ねる。次第に視界が白み出した。
遠くなる彼女に私は言った。
B「寒いね……」
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