おっちょこちょいと、カワイイやつ

2/3
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
「こんな日にまで活動することもないのに」 その丸い頭に積もらせた雪を、僕は払った。 「どのくらいここに?」 「1時間ほど、ですかね」 彼女は構えたカメラをおろし、僕を見上げる。 「最近頑張ってるみたいだけど、君ってそんなに熱心だったかな?」 「ええ、そうですよ。お気づきでなかったですか?」 本当にそうだろうか、と僕は考える。 少なくとも彼女が真面目に部活に取り組み始めたのは、受験を控えた僕が引退した6月あたりだったように思う。 それまでは主に写真部の活動に励む僕を、盗み撮りして遊んでばかりいた。 「いいのは撮れた?」 「ええ、今日もお目当ては捕れました」 「そっか、ならいつもみたいに一緒に帰ろうか」 僕は彼女のマフラーから、埋もれていたコートのフードを発掘し、濡れてないのを確認してから頭に被せた。 ふたり、足並みを揃えて帰路につく。 「フードくらいしなよ」 「それじゃ、見つけづらいと思うので」 「ふーん・・・・ところで気づいてる?」 「何をですか?」 「・・・・いや」 カメラのレンズカバー、つけっぱなしだよ。 そう言うことを僕のイタズラ心が遮った。 「もしよかったら、今日撮った写真貰えないかな?」 「いいですよ?」 かかった。 帰宅後に、真っ黒な画像の数々を見て慌てふためく彼女の姿を想像して、内心ほくそ笑む。 まったく、彼女は見ていて飽きないな。 前も、たしか折り畳み傘を持ってきてるのを家に着く直前まで忘れてて、僕の傘で狭苦しく帰ったこともあったっけ。 計画的で、しっかりしていそうなのに、たまに行動が利にかなっていないと言うか。 おっちょこちょいで、そして・・・・。 「ふふっ」 かしゃり。 思わず微笑みが漏れてしまった僕。 その間抜けな姿を、みっつのレンズが目敏く映した。 「カワイイやつ、ですね。先輩って」 心の中での僕の台詞を横取りして、 「絶好のシャッターチャンス、いただきました」 彼女は寒さに赤らんだ頬に笑みをのせた。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!