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「こんな日にまで活動することもないのに」
その丸い頭に積もらせた雪を、僕は払った。
「どのくらいここに?」
「1時間ほど、ですかね」
彼女は構えたカメラをおろし、僕を見上げる。
「最近頑張ってるみたいだけど、君ってそんなに熱心だったかな?」
「ええ、そうですよ。お気づきでなかったですか?」
本当にそうだろうか、と僕は考える。
少なくとも彼女が真面目に部活に取り組み始めたのは、受験を控えた僕が引退した6月あたりだったように思う。
それまでは主に写真部の活動に励む僕を、盗み撮りして遊んでばかりいた。
「いいのは撮れた?」
「ええ、今日もお目当ては捕れました」
「そっか、ならいつもみたいに一緒に帰ろうか」
僕は彼女のマフラーから、埋もれていたコートのフードを発掘し、濡れてないのを確認してから頭に被せた。
ふたり、足並みを揃えて帰路につく。
「フードくらいしなよ」
「それじゃ、見つけづらいと思うので」
「ふーん・・・・ところで気づいてる?」
「何をですか?」
「・・・・いや」
カメラのレンズカバー、つけっぱなしだよ。
そう言うことを僕のイタズラ心が遮った。
「もしよかったら、今日撮った写真貰えないかな?」
「いいですよ?」
かかった。
帰宅後に、真っ黒な画像の数々を見て慌てふためく彼女の姿を想像して、内心ほくそ笑む。
まったく、彼女は見ていて飽きないな。
前も、たしか折り畳み傘を持ってきてるのを家に着く直前まで忘れてて、僕の傘で狭苦しく帰ったこともあったっけ。
計画的で、しっかりしていそうなのに、たまに行動が利にかなっていないと言うか。
おっちょこちょいで、そして・・・・。
「ふふっ」
かしゃり。
思わず微笑みが漏れてしまった僕。
その間抜けな姿を、みっつのレンズが目敏く映した。
「カワイイやつ、ですね。先輩って」
心の中での僕の台詞を横取りして、
「絶好のシャッターチャンス、いただきました」
彼女は寒さに赤らんだ頬に笑みをのせた。
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