武人の疑問

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武人の疑問

「大丈夫か俺!?」  それから一ヵ月が経った頃だろうか、病院の個室で僕はたまらずにそう呟いた。 「うん? もう2~3週間もすれば退院できる程度には順調に回復しているはずだけど?」  付き添いをしていたイマトオというおっさんが、読んでいた漫画雑誌から目を離しもせずに僕にそう言った。 「いや、そうじゃなくて。この一カ月、知り合いどころか親の見舞いすら全く無いってどういうことだよ?」  そう。それからしばらく入院生活を続けていたのだが、その付き添いのおっさんが最初の会話で言った通り、親が面会に来るようなことはなく……。というか、他の誰一人として僕の見舞いに来ることは無かったのだ。  最初は気にしないように心掛けていた。  まあそれならそれで、リハビリにでも専念しようかとテキトーに頑張ったら、医者も驚く驚異の回復力で、一週間ちょっとで普通に(胸の痛みさえ我慢すれば、だったが)歩き回れるようになってしまい、わりとあっさりやることも無くなってしまった。  それで暇を持て余した僕は散歩でもしようと院内を歩き回ったりもしたのだけれど、それもすぐに飽きてしまい、ただぼんやりとテレビを眺めているだけの暇な生活が続いた。  そんな、暇を持て余している僕を見かねた看護師さんの一人が気を使って、彼女の年の離れた兄が持っていたという、ちょっと古めの漫画本や小説を貸してくれたりしたほどだ。  つまりは、それくらい誰も見舞いに来なかったというわけだ。  そんな生活が一か月ほど続き、ついに退院が数日後に迫った今になっても誰も来ないという、〝記憶を無くす前の自分〟の人間性についての不安に耐え切れなくなった僕は、「俺って大丈夫なのか!?」という問いを口にしたのである。  というか、自分の一人称が『僕』から『俺』に変わるくらいやさぐれていた。 『俺ってどんだけ友達いねーんだよ!』と……。
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