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B「深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ」
A「え?」
B「よく言うじゃん。ファインダー越しに見てる世界もまた、君のことを見てるんじゃない?」
A「って言っても、何も見えないよ?」
B「え?」
A「ほら、雪。レンズにびっちりついてて、ファインダー越しにはなんにも見えない」
B「見えないのに、どうやって撮るのさ」
A「見ないで撮るの」
B「そりゃまたどうして」
A「だって、そっちの方が人間らしいじゃない」
B「君の言ってること、よくわからないんだけど」
A「私が誰かの内側を見られないように、その誰かもまた私の中身を見られない。だから、手探りでお互いのことを知っていく。見えないまま、相手の中にどんな感情があって、どんなことを考えているのか、指先の感覚だけを頼りに。
見えていたら踏み込まなかったところに土足で入っていったり、すぐにわかったことにものすごーく遠回りしてたどり着いたり。
でも、だからこそ見えてくる世界もあったりしたり。
私はね、そうやってこの景色のことを知りたいの」
B「できるのかな」
A「できるよ。だって、あなたと私もそうやってお互いを知って、今一緒にいるんだもの」
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