3人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
私たちは今、一組の男女を尾行している。
依頼人は男の妻で、浮気の証拠写真が希望だ。
私と所長は展望台にいるが、男と愛人はここから見下ろせる広場で開催中の物産展を散策中。
私には男が警戒しているようには見えなかった。
「今じゃなかったらいつ撮ればいいんです?」
「あの二人がもっと楽しそうにしているところや、イチャイチャしてるところだろ。でも無理かもしれんな」
「え、無理って?」
「彼は楽しくなさそうだ」
「あぁ、確かに。愛人は笑顔が多いけど彼が笑ってるところは昨日からまだ見てませんね。でもそれじゃあどうするんですか、証拠。
二人で旅行に来ているのは事実なんですから、やっぱり今撮るべきだと………」
彼らの小旅行はもうすぐ終わるのだ。
けれど所長からOKはでなかった。
「並んで写った証拠だけで真実が判るとは思えない。もう少し様子を見よう」
「真実………。もしかして彼、浮気を後悔している、とか?ほんとは愛人と別れたいという気持ちがあって。でも何か別れられない事情があるとか?」
「俺に聞くなよ」
「だって所長が無理かもとか言うから。……浮気なんてしなければいいのに。奥さんも子供もいて浮気なんて」
「それでも好きになっちまったんだろ」
「理解に苦しみます」
「潔癖だなぁ、君は」
私は黙ったまま所長を睨んだ。
最初のコメントを投稿しよう!