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「夫婦には話し合う時間が必要ではないかと………」
「へぇ。君にしては珍しく大人びた意見が出たじゃないか」
珍しくとか大人びたとか。
向けられた言葉に悔しくなって、私は口を尖らせた。
そんな仕草が一番子供っぽいと判っているのに………。
「そんなに膨れるな。………ほら、今日の仕事はおしまい。寄り道していくぞ」
「え、どこへ?」
「写真映えするところ。猿が温泉浸かってるところにでも行くか」
「なんで急に」
「おまえが撮る趣味の写真。動物とか風景のやつ、もっと見たいと思うからさ」
「ヘタクソですよ」
「俺は結構好きだけど。………興味もあるし」
「ありがとうございます……!写真、褒めてもらえて嬉しいです!」
誰かのたった一言で救われて、変われることもある。
好きな人の言葉なら尚更、心にも残る。
壊れかけたあの夫婦が、もう一度向き合い言葉を交わすことで修復できたらいいのにと。
私は少しだけそんなことを思った。
「でも所長、私より上手くならないでくださいね、写真。助手の仕事がなくなっちゃう」
「そっちの興味じゃないんだが」
「え?」
「いや………なんでもない」
苦笑する所長を不思議に思いながら、手始めに所長が携帯で撮っていた雪景色の写真を後で見せてもらおうと思った。
私に何かアドバイスできることがあればいいけど。
───けれど数時間後、
そこには雪景色と一緒にこっそりと隠し撮りされた私の姿も写っていて。
私は驚かされることになった。
(終)
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