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プロローグ
血まみれの手で、最期の苦悶の表情が消える事の無い、愛しい少女の首を抱き締めた。自分の着物が血で染まっていくが、少年はそれを厭う事も無く、躯を離さない。
もう二度と、この瞳が開いて自分を見つめることは無い。その事実に呻くような声が出た。
「若、そろそろ陣営に戻らねばなりません。」、と哀れみの表情を浮かべて初老の男が言う。
若と呼ばれた少年は答えず、そっと藁の上にその躯を横たえた。覚悟をしていた筈だ。復讐という目的を果たすには、綺麗な道だけ歩んではいけない事くらい。だが、その第一歩目で、奪うはずでは無かったものが失われ、彼は自分の罪の深さを呪った。
ゆっくりと立ち上がる。見上げる空には月が浮かんでいる。
彼は祈った。
どうか、どうか。自分の魂は地獄に落ちても構わない。
だからもう一度だけ。
もう一度だけでいいから、
生きて、・・会いたい。
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