最終章 夜の向こうへ

4/4
80人が本棚に入れています
本棚に追加
/43ページ
 ヒルリに拍車を当てつつ、リキは手綱を握る右手で涙をぬぐった。  泣いている暇などなかった。生きている以上、人は考え続けなければならない。これから先を生き抜くために。  リキは短くなったうなじの毛先に、右手を伸ばした。ちくちくと手を刺す感触が、リキに、退くなと叫んでいる。  為せる者が、為さねばならないのだ。もはや為すことの叶わぬ者たちは……。 「ヒルリ」  涙でくぐもった声で、リキは言った。波をかき分けるヒルリの耳が、ぴくりと動く。 「父上は、いってしまったよ、ヒルリ」  これが、最後の一雫だ。  そう、覚悟を決めてリキが落とした涙は、広大な海に溶け込み、すぐに見分けもつかなくなった。それからリキは、きっと眦を吊り上げ、行く先を見据えた。  水平線を覆う闇がほんの少しだけ、薄まった気がした。  夜明けが、迫ってきていた。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!