プロローグ

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 悲鳴が聞こえる。つんざくような、人々の叫び声だ。  舞い上がる黒煙、倒壊した建物。地面は瓦礫(がれき)で溢れかえり、思うように歩けない。  ほんの数分前、東京の中心部で爆発が起きた。一瞬にして炎が巻き上がり、爆風が人々を飲み込んだ。  爆発の影響で怪我を負った者、瓦礫に埋もれ助けを呼ぶ者、死んで動かなくなった者。  突然の出来事に人々は、恐怖と悲しみが入り混じった顔で「自分の身に何が起きたのか」を受け止め叫び声を上げている。  そんな状況下、力なく地面に倒れこんでいた赤髪の男は、微かな声で名前を呼んだ。 「きよ、ひ…さ……」  男の名は成瀬響。頭部から血を流し目に涙を溜めて、うわ言のように名前を呼んでいる。 「ひ、びき……」  彼の目前にはもう一人、男が倒れていた。赤髪の男に視線を向けて、名前を呼んでいる。爆発の影響で意識が朦朧とする中、赤髪の男へ必死に手を伸ばしている。  二人の距離はそう遠くはない。しかし触れることができずにいた。手を伸ばすたびに身体中に激痛が走り、これ以上動くことができない状態だ。  次第に意識が遠くなる中、誰も救うことができない自分の無力さに――男は、一筋の涙を流した。
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