1 「090」と「080」

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そしてそんな彼女を、さすがに両親も諦めたようだ。 「まぁ、忠昭のところ美樹さんに赤ちゃんが出来たっていうし、 貴女は貴女の好きにしなさい」 それまでは、事ある毎に「結婚」を強く臭わせてきた母も、 弟夫婦のおめでたに溜息交じりに呟いたものだ。 それから三年。 だから日曜の今夜も、こうして真友子は一人で鍋を突ついている。 しかし、この夜は一つだけ違ったことがあった。 なぜ――、と言われると明確な答えはない。 強いていうならば、彼の声が耳に残っていた。 しかも、かなり心地よく――。 そのせいか、ほろ酔い加減の脳内でも心地よく彼の声を振り返る。 お鍋、作ったかしら。 冷えたビールが喉を滑り下り、ふと目の前の鍋を目に思ってみる。 そして、 どんな人なのかな。 そう思う横で、どこか少年のような無垢さと無邪気さ、そしてちょっぴり おっちょこちょいで素直な人の好い空気が、耳に蘇った声と共に浮かんで くる。 なぁーんか、良い日曜。 しかしそんな言葉が胸を過って、真友子は小さく苦笑した。 そして残りのビールを喉に流し、小さく呟いた。 酔ったかな。
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