90人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
そしてそんな彼女を、さすがに両親も諦めたようだ。
「まぁ、忠昭のところ美樹さんに赤ちゃんが出来たっていうし、
貴女は貴女の好きにしなさい」
それまでは、事ある毎に「結婚」を強く臭わせてきた母も、
弟夫婦のおめでたに溜息交じりに呟いたものだ。
それから三年。
だから日曜の今夜も、こうして真友子は一人で鍋を突ついている。
しかし、この夜は一つだけ違ったことがあった。
なぜ――、と言われると明確な答えはない。
強いていうならば、彼の声が耳に残っていた。
しかも、かなり心地よく――。
そのせいか、ほろ酔い加減の脳内でも心地よく彼の声を振り返る。
お鍋、作ったかしら。
冷えたビールが喉を滑り下り、ふと目の前の鍋を目に思ってみる。
そして、
どんな人なのかな。
そう思う横で、どこか少年のような無垢さと無邪気さ、そしてちょっぴり
おっちょこちょいで素直な人の好い空気が、耳に蘇った声と共に浮かんで
くる。
なぁーんか、良い日曜。
しかしそんな言葉が胸を過って、真友子は小さく苦笑した。
そして残りのビールを喉に流し、小さく呟いた。
酔ったかな。
最初のコメントを投稿しよう!