君がAで僕がB

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君がAで僕がB

 新入生の登校が始まった。新たな学友を歓迎するはずの桜の木は、満開の時期を終えて花弁を散らし始めていた。 「僕の時もこんなだったな」  なぜ桜の木を正門近くに置きたがるのだろうか。正門に吸い込まれていく新入生を横目に、風に舞う花弁が空から降り注ぐ。  新しい部員を勧誘して充実した部活動を送ろう。 「もうこんな季節か、そろそろ廃部通知が届きそうだ」  部室の窓から見下ろした先には、枝に雪化粧を纏った桜の木が佇んでいる。いつの間にか桃色の季節から白色の季節へと移り変わったようだ。 「……Aさん」  よく見ると新入部員の彼女がカメラを手に校舎をフォーカスしている姿が目に移った。ゆっくりと横に流れるレンズ、ピタリと止まった先には僕が居た。  気づいてしまっては仕方がないと、僕は様子見がてら彼女の元へ向かう。 「顕微鏡……覗いてたんですか?」  小さな世界を覗き込む僕とは対照的に、彼女は入部早々に幽霊部員となってしまっていた。一度俯くような素振りを見せた彼女。  少しは申し訳ないとでも思ってくれてるんだろうか。それなら、と僕は彼女に告げた。 「うん。光学部にも顔を出してほしいかな」 「<光学レンズで小さな世界を覗いてみよう> でしたっけ?」 「あ、うん。そのフレーズは新入部員勧誘のポスターだね」  覚えていてくれた喜びから、僕の表情は和らいだ。けれどもすぐに一転してしまう。 「私の光学レンズはこれなんですよ」  そうして彼女は白い息を漂よらせながら、 「一眼レフ」
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