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ルクリウス帝国は内乱により、数百年の歴史に終わりを告げた。
首都は反乱軍人たちと暴徒により、混沌に陥った。
いつもは整然とした栄華の町に溢れるは、暴力。
そこかしこに聞こえるうめき声。悲鳴。怒号。
黒髪の少年――リギルは混乱した町を歩きながら、顔をしかめた。
(……結局、一緒かよ)
ふと、民家から一際高い悲鳴が聞こえて、リギルはその家に入る。
大きな体躯の男が、まだ子供とも言える年齢の少女を抱きすくめていた。
「何してる」
「野暮なこと聞くなよ」
男は一蹴して取り合わず、暴れる少女を抑え込もうとする。
咄嗟に、体が動いていた。
「手が滑った」
一応言い訳しておいて、後頭部をぶん殴る。男はぎゃっと悲鳴をあげて、崩れ落ちた。
男の腕から逃れた少女は、リギルを見て怯えた顔をして――家の外に走り出てしまった。
呼び止める暇もなかった。
(まあ、俺も同じにしか見えないか)
ルクリウス帝国を滅ぼすために立ち上がった、有志の軍団。その証拠に、リギルは鷹の紋章が彫られた腕輪を付けていた。
少し前までは、誇らしかった。だけど、目的を遂げた後、崇高な軍隊は暴徒に成り下がった。
「…………」
故郷に、帰ろう――。もう、自分はここに用はない。
けだるい体を引きずり、リギルは民家を出た。
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