1 始まりの花束

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 春の陽気が漂う四月中旬。  桜も名残惜し気に散った麗らかな午後。  昔ながらの和風建築のモダンな店内に、甲高い少女の声が不満げに響いた。 「だから、帝君、聞いてる? 私、振られたの! 付き合って二カ月でだよ? あっちからどうしても付き合ってって言ったのに、別れの言葉は『胡桃さんは重い』とか意味不明でしょ? 聞いてる? 帝君!」  大きな林檎が入ったアップルパイに、振られた仇とばかりに、少女がブスリとフォークを突き刺した。  黒く艶やかな髪は、くるくると綺麗に巻かれ、動く度に軽やかに揺れて肩に落ちている。  赤いスカーフが印象的なセーラー服姿の少女は、はっきりとした顔立ちの大きな黒い瞳に、じわりと涙を浮かべていた。  不満を隠すことなく口を膨らます少女に、向かいに座っていた見城帝は苦笑いを浮かべる。  清潔感を感じさせる黒い髪に、少女と良く似ている二重の瞳。顔は童顔のせいか、年齢よりも若く見られることが多い。 「もちろん聞いているよ。残念だったね、胡桃。でもね、その男は胡桃とは縁がなかっただけだよ。大丈夫、次は素敵な彼に出会えるよ」 「……また、それ? 半年前に彼氏と別れた時にも、帝君は同じことを言ったわ。周りは彼氏や婚約者の話で持ちきりなのに、私は、二カ月で別れたのよ! また、噂されるわ……」  そう言うと、胡桃は肩を震わせ項垂れた。 「……胡桃。まだ、君は十七歳でしょ? 焦る必要はないよ。それにしても婚約者って、今の時代にもあるんだ。……政略結婚。時代錯誤も甚だしいね」  つぎは困ったような様子で、落ち込んでいる胡桃に、何と声をかければいいのかと帝は思案する。
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