第十三話「嘘と誤魔化し」

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    4  静かに閉じられた扉を見つめ、一砥はハァと溜息をつき、見慣れない白い天井を仰ぎ見た。  実は今日、彼は、高蝶華枝のいる軽井沢に向かおうとしていた。  だが高速道に乗る直前に、事故に遭った。  幸いスマホは無事だったために、華枝にはすぐに行けない旨のメールを送ったが、相手が何のつもりで自分を呼び出したのか、その真意は分からず終いだ。  花衣には仕事だと嘘をついた。嘘をついた罪悪感から、事故に遭った時もすぐに連絡出来なかった。  事実を隠していることは彼女の為を思ってのことだが、一番大切で愛する女性に隠し事をしている現状は、一砥の性格からしてひどく心労を伴うものだった。  だが事実を知って傷つき悲しむ姿を見たくないのも真情で、さらに本音を言えば、高蝶家の仕打ちにショックを受ける余り、金持ちという人種に嫌悪感を抱き、花衣が自分との結婚すら考え直すことになったら困る……というのも、真実を隠す理由の一つだった。 (だがこんな私情を挟んで嘘や誤魔化しをする時点で、俺も高蝶の人間とさほど変わりないのかもしれない……)     
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