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花衣のクラスの担任を務めた女性教師はこの道三十年の大ベテランで、厳しさの中にも年配者ゆえの余裕と大らかさがあり、そのユーモアを解する性格とベイマックス似の体型は生徒達にも人気だった。
家族との縁が薄かった花衣だが、この担任の女性には身内に対するような親しみと情があり、もう明日からこの人には会えないのだと思うと、急に涙が止まらなくなった。
さらに花衣が泣き出したせいで、周囲にいたクラスメイト達にまで涙が伝染し、三尋も千恵も、他の女生徒達も揃って泣き出し、男子生徒まで涙ぐむ有様だった。
メガネの奥の小さな瞳を細め、担任の教師は泣く花衣に向かって、「その涙はきっと、これまですごく頑張って来た三年間の自分への、ねぎらいの涙よ。里水さん、本当によく頑張りましたね」と優しい言葉を掛けてくれた。
「先生……」
恩師の優しい言葉はまた、花衣だけでなく周囲の生徒達の涙を誘った。
花衣は祖母に甘える孫のような気持ちで、担任教師のふくよかな胸に縋って泣いた。
散々涙を流した後で、花衣は一人で謝恩会会場から外に出た。
千恵や三尋はまだ、この後の二次会に参加するらしい。
日が落ちてさらに寒さが増し、ホテルのドアをくぐった途端、花衣は吹きつける寒風に慌ててコートの前をかき合わせた。
このまま真っ直ぐ駅に向かうつもりでいたが、視界の隅に見覚えのある車を見つけて、花衣は無言で足を止めた。
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