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第十三話「嘘と誤魔化し」
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三月十日。金曜日。
空は雲に覆われ冷たい北風が吹きつける、三月にしてはかなり寒いこの日に、花衣の学校の卒業式が行われた。
近くにある桜の木もまだ蕾は固く、春の訪れはまだ先のように感じる天候ではあったが、卒業生達の胸は期待と喜びに大きく膨らんでいた。
ファッション専門学校の学生らしく、所謂“卒業式ファッション”に身を包んだ者は少なく、多くが自作の、あるいは個性に満ちたブランドファッションを纏い、晴れの日にも感性を競い合っている。
花衣も自作のドレスとジャケットで華やかに装い、友人達と一緒に式に参列した。
卒業証書授与に校長や来賓の挨拶、在校生送辞に卒業生答辞と、セオリー通りの式を終えると、教室に戻って最後のホームルーム、講師や友人達との写真撮影会と続き、さらにホテル会場での謝恩会という流れだった。
式の間も賑やかな写真撮影会の時も、全く涙を見せなかった花衣だが、謝恩会で担任に別れと感謝の言葉を口にした途端、いきなり涙が溢れて止まらなくなった。
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