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半曇レンズの向こう
「見えないものまで、見えたらいいなって」
カシャリと音を立ててウインクしたのは彼女ではなく、彼女が手にしたカメラだった。
プロのカメラマンなら誰しも垂涎する最新式のカメラ。学生が持つには高級すぎるそれで、彼女は早朝の雑木林を撮っていた。
真一文字に結んだ口。祈るようにやや垂れた頭。動くのは時折上がる白い吐息くらい。
かけようとした言葉ごと、ごくりと息を呑みこんだ。それくらい今の彼女は全身全霊真剣で、目の前の小さな器械に没頭していて、いつもの軽口では相手にしてもらえないような変な凄みが漂っていた。
何かとっかかりを、と必死に頭をめぐらせる。
「写真、好きなの?」
やっと口をついた問いは平凡で間が抜けていた。が、なんとか当たり判定に成功したらしく、彼女はちらりとこちらを振り返った。
「好き、っていうか」
その口から出た答えが、冒頭の台詞だった。
──ミエナイモノッテ?
「たとえば」
「幽霊とか」
呟いてからクスッと笑って、冗談だと舌を出す。
「ほら、きれいでしょう」
撮ったばかりらしい画像を差し出された。すっかり冬化粧した裸の木々が、触れれば砕け散るガラス細工のような華奢ないでたちで並んでいる。
「目で見るのとは全然違うの」
なるほど彼女の言う通りだと思った。
肉眼で見るよりずっと繊細でくっきりとした輪郭。まるで別世界のように現実離れしたこの風景こそ、本物よりずっとホンモノなのだと錯覚する。
──けれど。
「眼鏡のせいなんじゃないの」
心に浮かんだ不安と恐れが、素直な肯定を許さなかった。
「きっと、度が合ってないんじゃないかな」
ひねくれた意地悪な言葉が、次々と口をついて出る。
「だからうまく見えないんだ」
怒るかもしれないと思った。罵られても当然だと覚悟した。
「それに、そもそも」
けれど彼女は何も言わなかった。ただ穏やかに微笑んで、ファインダーをのぞいている。
「それは君のじゃない」
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