七色のシャッタースピード。

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「呉羽(くれは)くん!!」 「は__」 振り向いた瞬間。勢いよく水の飛沫を顔面に受けた。不意打ちの衝撃は、記憶をとばしてしまうのではないかと思わせるほど頭の中を真っ白にしたが。僕たちは今、学校の中庭で花に水やりをしている最中だ。 「~っ…何するんですか。湊(みなと)先輩」 「見て見て、呉羽くん!ほら!虹よ!」 真夏の太陽に背中を向けて、シャワーホースの先から水をだす。僕は、水滴のついた眼鏡の向こう側で、彼女の言う通りのカラフルを瞳に映した。 「湊先輩。水の無駄遣いは駄目ですよ」 散々な悪戯を受けたものだ。前髪が濡れて額に張り付いている。前述した通り眼鏡も被害を受けた。制服の襟元まで冷たい。僕は、右手で乱雑に前髪を掻くと眼鏡を外して、気休めにしかならないが、シャツの半袖で頬の水滴を拭った。そして言葉を投げかける。 「あら呉羽くん。人聞きが悪いわ」 しかし、彼女はとても楽しそうな声で返事をするのだ。 「『無駄遣い』じゃなくて、自然を楽しんでいるのよ。大事なことだわ」 「『自然』って…人工的に作り上げてるじゃないですか」 「それは~…そう、だけれど…」 湊先輩は唇を窄めるが、いまだに水を止める気はないようだ。彼女の視線の先で、七色が揺れている。
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